"Roots/vol.4"『第27班』ーーー「作品に恋をする」みたいな、そんな瞬間を見たい。

佐藤佐吉演劇祭2022、参加団体のこれまでとこれからをお伺いし、できれば歴史をアーカイブしていくインタビュー企画"Roots"が始まっております!

今回は、3/24より初日の第27班さんより、代表の深谷晃成さんへのインタビュー配信の抜粋書き起こしです!

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第27班
現主宰の深谷晃成が2013年に「第27班」として演劇ユニットを旗揚げ。のちに劇団化。現在は7名で活動中。
<受賞歴>
SAF学生演劇祭vol.7 最優秀賞
道頓堀大阪学生演劇祭vol.7にて最優秀賞、ダンスパフォーマンス賞、ザ・プラン9賞等計5部門受賞
MITAKA "Next"Selection 20th 参加
若手演出家コンクール2019年度 最優秀賞


深谷晃成

脚本 演出 俳優 Webライター 7月24日生まれ 埼玉県出身

〈経歴〉
尚美学園大学総合政策学部ライフマネジメント学科演劇コース卒。大学にて若林一男氏に会話劇の演技演出を学び在学中に劇団「第27班」を結成、旗揚げ。第27班の全作品の脚本・演出を担当する。

公式HPより抜粋)

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大石:佐藤佐吉演劇祭2022の関連企画インタビュー企画Roots、vol.4ですね。第27班の深谷さんにいらしていただいております。よろしくお願いします。じゃあ、深谷さんの方からちょっと簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。

深谷:第27班、代表で、脚本演出をしております深谷晃成です。よろしくお願いします。

大石:お願いします。深谷さんが演劇を始めたきっかけとかってどういうところだったんですか?

深谷:きっかけは、もともとお笑い芸人目指していて。

大石:へえ!すごく意外です!

深谷:中学くらいは何かお笑いのコンテストとか出たりとかしてたんですけど、…そのときに審査員の方から演技勉強した方がいいよと言われて。
で何か大学は演劇を学べるとこに行こうみたいなノリで、それで演劇を学んで、その後演劇にどっぷり浸かっちゃって。って感じですね。

大石:大学は尚美学園大学ですよね。

深谷:そうですね、六大学の一つ、尚美学園大学ですね。

大石:道頓堀演劇祭で賞取られてますけど、ご出身が関西っていうわけじゃないですよね。

深谷:そうですね。シアターグリーン学生芸術祭の、最優秀の副賞みたいなので出させていただきました。

大石:お笑い芸人になりたかったっていうのは…すごいびっくりしてるんですけど、

深谷:ほんとに中学高校ぐらいですね。

大石:なるほど。ちなみに今は好きな芸人さんってどなたですか?

深谷:えーっとめちゃめちゃいろんな人好きなんですけど、今、俺がイチオシなのは令和ロマンさんです。吉本の芸人さんで、慶応慶應義塾のお笑いサークル出身の、まだ3、4年くらいしか経ってない人なんですけど、めっちゃ面白いですね。
今年、少なくともM-1の敗者復活までは絶対に行くと思います。

大石:すごい。覚えとこう。コメントも頂いてますね。こういうのをどんどん聞いていきたいですね。

深谷:うれしいですね。あんまり僕、アフターイベントとか嫌いだったんで。というか自分の身の上話すっていうのはほとんどしてこなかったので。

「恋してしまったんですよね、シンクロ少女に」

大石:じゃいろいろ突っ込んでいきますので、言いたくなかったら言いたくないってください(笑)影響を受けたものとか、好きなものについてお伺いしたいんですけど。

深谷:えーっとそもそもお笑い始めたのが。最初ラーメンズさんだったかな。あとバナナマンさん。に、憧れてお笑い始めましたね。
で、演劇を沼らせたのは、シンクロ少女さんと、ロロさん。
先輩に誘われて観に行って、もうそこの2団体の…それこそ、2012年の佐藤佐吉演劇祭を、あれをたしか10団体全部観たんですよ。全部見たら還付金みたいなのがあって、その還付金目当てにちょっと(笑)

大石:なるほど!

深谷:あの年すごかったですね。競泳水着、まごころ18番勝負、悪い芝居、シンクロ少女、ナカゴー、ロロ、ピンク地底人、ぬいぐるみハンター。北京蝶々、アマヤドリ。

大石:すごい、全部覚えてる!

深谷:10団体見て、悪い芝居、シンクロ、ナカゴー、ロロの並びが本当に面白すぎて。
ちょうど大学2年生ぐらいで。ほんと面白くてそこでどっぷり。「あぁ、もっと面白いのやりたい」みたいになって。特にシンクロ少女がもう自分の何か。心臓を射止めてくれたんで。
その年にシンクロ少女さんにDMを送って。「なんでもやるんで」みたいなラブレターを送って。そこから少しずつ仲良くさせてもらって。

大石:すごい行動的ですね。

深谷:恋してしまったんですよね、シンクロ少女に。

大石:すごいなぁ。いいですね。そういう観劇体験って最高ですよね。

深谷:そのきっかけをもらえたのも佐藤佐吉演劇祭だったので。僕の中でかなり、「あのシンクロ少女が出た佐藤佐吉演劇祭」っていう。

大石:今回の第27班見て、演劇やるぞって思う若者がいるかもしれないですしね。

深谷:そうなってほしいな。そしてその人たちがそのままシンクロ観に行ってほしい(笑)

大石:何か、好きな音楽とか小説とか漫画とかそういうのって何かあります?自分を形成したぜぐらいの。

深谷:僕、漫画めっちゃ好きでかなり読むんですけど。オノ・ナツメ先生の作品が好きで。オノ・ナツメ先生の漫画ってすごい映画みたいなんですよ。ハマってしまうともう、スルメみたいな漫画で。全部面白いです、先生の作品。
最近だと…そうですね。最近だと、タコピーの原罪とか。あと、やっぱり全員が全巻揃えるべきだと思うのはチェンソーマンですね。

大石:あぁーーーめっちゃチェンソーマンについて喋りたいんですけど、チェンソーマン喋る場所じゃないな…ルックバックも買っちゃった。

深谷:買っちゃいましたね。

「ずっと一緒にやりたい、っていう人に声をかけて」

大石:団体の成り立ちに行ってみたいかなと思うんですけど、劇団員さんは結構たくさんいらっしゃいますよね。

深谷:7人ですね。

大石:どういう風に集った劇団なんですか?

深谷:僕が好きな人を集めた感じですね。いつでもそうです。僕が大好きだから、ぜひ一緒にやりたい!みたいな。また、シンクロの話になっちゃうんすけど。シンクロ少女の横手さんが言ってた話で、
飲みの席だったかな…僕がすごく若い時に、僕ともう一人、そのときフリーの子がいて、フリーの子が劇団に誘われてて、みたいな相談を横手さんにしてたときにアドバイスをしてくれたんですけど、
「この人の作品に何回でも出たいと思える団体にだけ所属した方がいいよ」っていうのを言ってて。逆に言い換えると、何回でも出したい人を入れるべきだなと思って。

大石:なるほど。

深谷:っていう感じで、ずっと一緒にやりたい、っていう人に声をかけて両想いになれた人たちで集まってるのが今ですね。

大石:なるほど、最高ですね。それはじゃあ結構全員深谷さんが声をかけたんですか?向こうからアプローチっていうこともあんまりなく。

深谷:そうですね。

大石:何か、そのビビッとくるポイントって何かあるんですか?

深谷:一番はうーん。声なのかな。俺、声が好きな人がやっぱ好きで。この声を自分ずっと自分の舞台で使いたい。使えたらすごいうれしいみたいな。うちの劇団員の全員の声、大好きです。

大石:コメントでも、「うるさくない声よね」っていただいてますね。
これ、インタビュー始まる前にしゃべってたんですけど、何か稽古の進め方がちょっと変わってきたみたいな。

深谷:そうですね。もともと僕、コロナよりもずっと前から群像劇を中心にやってるんで、少人数で稽古していたんですよ。シーンごとにというか。
基本的に、稽古場で「今日何もやることなかったなみたいな」みたいな人がひとりでも居るのがすごい嫌で。すごく申し訳ない気持ちになるから、なるからなんか、必ず稽古場ではそこに来た意味を持って帰ってほしいと思ってやるんですけど、
コロナになってから…そのやり方がすごい良いってなってたじゃないですか。何か少人数で、感染を減らすみたいな。
僕らは逆に全体稽古がどんどん増えていって、なんか部分稽古よりも全体をちょっと増やしたくなってしまって。そのぶん換気のペースが早くなったりとか、ちょっと制限が多くなって逆に不便になってる部分もあるんですけど。

大石:あれですか、何か進め方がちょっと変わったっていう。

深谷:そうです。さっきもそれこそ配信前にちょろっと喋ってたんですけど、やっと自分の作品のコツを掴めたというか、俺の作品に一番適している進め方みたいなのが、やっと立ち上げて8年目ぐらいでいいなと思うやりかたが見つかって。そうなってくるとサクサク進んじゃうから、人が足りなくなってきて(笑)
全員入ってもらった方が、色んなシーンできていいね、みたいになる感じなんですよね。

「再演で、初めて興行をアートに昇華できる」

大石:やっぱ再演というのもあるんでしょうね。

深谷:そうですね。やっぱり良かった作品は鮮度が落ちる前に再演すべきだとずっと思っていて。
初演はどうしても「成功させること」に重きを置いてしまうから、芸術的な観点というか、アートとしては何かやっぱり弱いと思うんですよ。アートに集中できないというか。再演で、初めて興行をアートに昇華できると俺は思ってて。

大石:初演が、「完成させることに重きを置いちゃう」っていうのもよくわかります。
完成するかどうかがまだわかってないものと、1回これが最後までいってるのがわかってるものって、やっぱちょっと見方が違うというか。

深谷:そうですね自分が視野が広がるというか、すごい俯瞰して見れるから、再演こそがアートだと思ってます。

大石:今演出のこと結構お伺いしたんですけど。脚本について、プロットとか箱書きとか。そういう書き方があるじゃないですか。どういう風に進めてますか?

深谷:脚本はいやでも、これでも俺がその大石さんが聴きたいって気持ち、すっごいわかるんでこれ質問で返したいんですけど、書いてる時何も思わくないですか(笑)
今になってあの時どう書いてたっけ。って絶対わからなくないですか。

大石:(笑)そういうことはままありますね。特に短編なんて何を思ってこのセリフが出てきたのか全然わからない。

深谷:本当にいや、脚本なんて奇跡の集合体なんだから。

大石:どういうところから生まれるんですか。

深谷:僕、やりたいことめっちゃその都度変わっていっちゃうんですよね。
とにかくやりたいことが多すぎて、しかもその都度変わっていっちゃって。ゆえに劇団のカラーが定まってないっていうのも、ちょっとあるんですけど、
さっき、それこそ大石さんが最後に僕らの見ていただいた潜狂っていうのはジャズを使ったちょっと暗めの話なんですけど、

今回はもう。めちゃめちゃ楽しい明るい話を書いたりしてるんですけど。
どうしても、何かあれやったあと次こっちがやりたくなってみたいな。
潜狂のときは本当にこの上なくジャズが好きで、もとより好きだったんですけど、ジャズをとにかくフューチャーした作品を作りたくて、でもその公演中くらいから、もう別のことがやりたくなってて。みたいな。
さっき、その劇団員を選んだ理由みたいな話あったんですけど、声も大事なんですけど、やっぱり…僕がどうしても愛しいと感じるものが毎回右往左往するので、それに応じてどんどん姿を変えられる人みたいなのも、多分あると思っていて。
何でもできて何にでもなれる人みたいなのが集まってくれてると思ってて、

大石:じゃあ結構みんな毎回形を変えるんですね。

深谷:そうですねだから毎回僕が好きなもの、いま好きなもの、僕のトレンドをみんなが追ってくれてて、それを追うところから多分稽古というか、作品作りが始まってるのかな。


MITAKA "Next"Selection 20th 「潜狂」舞台写真


10名の出演者、全員が魅力的

大石:おっ、じゃあそのまま今回の話を聞いてみたいんですけど、今回はどんなトレンドなんですか。

深谷:今回の作品は90年代アメリカのドラマをモチーフにしていて。「フレンズ」っていう。

大石:笑い声が入るやつ。

深谷:世界一のドラマがあるんですけど。

大石:(笑)

深谷:その世界一の「フレンズ」というドラマに、僕が書いたとき、爆ハマりして。
たしかシーズン10まであるんですけど、1話20分ぐらいの作品が、1シーズン24話ぐらいまであって、それが掛ける10シーズンもあって、それを全部ずーっと見続けていた結果、その世界の…マンハッタンに僕は住んでいて、その時。その状態で書いた作品ですね(笑)

大石:確かに、チラシからも溢れ出る陽の匂いが(笑)

深谷:今回再演なんですけど、初演の時が、2020年の1月1日、元日にやったんですよ。どうせ正月って人みんな暇だろっていう精神で公演を打ったんですけど、結果的に人はいっぱい来てくれて、それは嬉しかったんですけど。
さっき笑い声が入るドラマ、って言ってたんですけど、あれを実際に演劇でやってみようと思って。
12月の29日に、一般のお客さんを対象に、無料で稽古場に来てもらって、実際に稽古を見てもらって、その笑い声を録音して。それを本番で流したんですよ。
たとえスベったとしても絶対に笑いが起きるっていう最強の想定のもと、芝居を作ったんですよね。

大石:おもしろっ!実際どうだったんですか。

深谷:実際は、初日と2日目くらいはもう、笑い声が邪魔すぎるって言われて、めちゃくちゃ不評で(笑)音声以外の笑いが一切起きなくて。
以降は前説でそれを、「演出効果として入れます」って告げてからやるっていう風に切り替えたら、お客さんもちゃんとそこに馴染んでくれて、よかったんですけど。

大石:なるほど、その演出は今回もやるんですか。

深谷:今回はやらないですね(笑)笑い声なしでこの作品はどのぐらい面白いのかってのを、ちょっと見たくて。
それこそやっぱり配信とかの楽しみ方に近いと思うんですよね。笑い声がある中の作品を楽しむっていうのって。
あ、実際のフレンズの撮影もお客さん収録スタジオに入れてるんですけど、300人くらい入れて、

大石:すごい、もう演劇ですね。

深谷:いや、すぐちょっと聞いてください。これホントすごいんですけど、フレンズの撮影現場で、その300人ぐらい抽選で当たったお客さんをワーナーのでかいスタジオに入れて、そのお客さんたちを盛り上げるMCの人もいて、スタジオ内がフレンズ大好きな観客で埋め尽くされてるんですけど、それでもやっぱりスベるときはスベるんですよ。

大石;なるほど。

深谷:そしたら近くに脚本家陣が待機してて、ダッシュで走って、このセリフに代えてくれって言うんです。それでセリフを変えてウケたら、そっちを採用するっていうやり方で。

大石:めっちゃすごい。

深谷:すごいですよね。フルハウスとかフレンズとかの、笑い声が起きる「ラフトラック」って言うんですけど、本当にウケたものを、収録スタジオで選ばれたものだけが、お茶の間に届くっていう。
こんなの絶対(舞台で)やりたいよ!と思って(初演の時に)やってみたら、やっぱ演劇は演劇で楽しんだ方がいいのかなってなりました。

大石:そうですね(笑)今回はどんな話なんですか?

深谷:フレンズっていう作品が、マンハッタンのとあるカフェに集まる若者たちの…いろんな悩みだったり、葛藤だったり、恋愛とかがあって、それを1話20分ぐらいでやっていくっていう作品なんですけど、
それを踏襲してて、とあるバーに集まる若者たちの、あれこれ悩み抱えてたりとか、恋愛してたりとか、その若者たちの群像劇みたいなものを今回も作ってるんですけど。
(下品なジョン・ドー 笑顔のベティ・ドーの)特徴として、一人一人の役名がなくて、一人一人がタイトルになってるんですよね。役名がそのままタイトルになってて、その名前の物語があるっていう。

大石:あ、そういう意味だったんですね。章分けしてるというか。

深谷:群像劇を描いてて、何か一個…壁みたいなものにぶち当たる時があって。
それが、その「登場人物全員」あるいはその「主人公となり得る人たち」が、決して全員がタイトルに戻ってくるわけではないっていうことがあって。

大石:なるほど、なるほど。

深谷:例えば前回王子小劇場でやらせていただいた「どうしよう 孤独だ 困ったな」っていう作品があったんですけど、最後必ずしも全員が孤独になってる作品というつもりではなかったんですよ。色々な人たちが孤独になっていく話なんですけど、孤独という単語で片付けてほしくない人もいて。
でも、どうしてもそれがタイトルに帰結してしまう。いろんな登場人物がいても、結局この作品は孤独をテーマにした作品なんだってなってしまうと、見え方がまた変わってしまう…っていう何か1つの、ジレンマっていうか、群像劇をやるからには背負わなきゃいけないもの、があって。

大石:うんうん。

深谷:それぞれのドラマがあって、それぞれは全員が共通のタイトルになっていくわけではない。と思っていたんですけど、
だからこそ今回、群像劇をやるけど、一人一人には全然違う物語がある。で一人一人違う物語をオムニバスという形にするのではなく、一つの作品、としてまとめるにはどうしたらいいのか、っていうのを。実験的に作った作品だったんですね。

タイトルは何かチープなものから、小劇場でやりそうなやつだったり、キャッチーなものだったり、いろんなものを10個集めて、10人の、それぞれの登場人物たちがそのタイトルに最後還っていく、みたいな作品を、90年代のアメリカドラマをモチーフに作った。群像劇です。

大石:盛り盛りですね。

深谷:そうですね、盛り盛りの作品ですね(笑)あと、10人の役者がめちゃめちゃいいですね。キャラクター芝居って言っちゃうと浅くなっちゃうんですけど、
本当に…僕が、10人のキャストが全員1つの物語をくらい持ってるっていうつもりで書いた戯曲に対して、それを余すことなく捌ききれる役者が10人集まったっていう感じがしてて。
もうなんか個性の…マシンガンみたいな。全員がもう本当に魅力的で、「魅力しかない」みたいな作品を僕ら目指して作ってるんですけど、それがもう少しで届きそうな感じがあるので、それを楽しみにしてほしいですね。
作演出をやられてる方とかもあえて呼んでいて、いろんな角度でこの作品を何か作ってほしいと思ってますね。

大石:深谷さんも出ますよね。

深谷:僕も出ます。


「コーラボトルベイビーズ」舞台写真


「良作にはなり得るけど、傑作にはなり得ない」

大石:最後に…さっき、その時の、ジャズだったりフレンズだったり、右往左往するっていうふうにおっしゃってたんですけど、
何かその中でも変わらずに大事にしてることというか、心躍る瞬間だったりとか、何かこう私は何かいい音聞くために演劇してるみたいなことあるんですけど、そんな感じで何だろう、演劇を作るときに大事にしていることみたいなのってありますか。

深谷:今ちょっと…「いい音」ってすごい俺もぐっときたんですけど、ちょっと詳しく聞きたいです。

大石:なんですかね…何が面白いとか面白くないとかドツボにハマったりしたときに、自分が自然と心躍ってしまうような、1週間本番があったら2回ぐらいしか聞けない奇跡みたいな、何か本当に信じられる音みたいなセリフが聞けると、すごいやってよかったなって思います。

深谷:音なんですね、視覚とかじゃなくて。


大石:どちらかというと私は音ですね。話お返しします!(笑)

深谷:なるほど、いや、わかります。(大学時代に)お世話になった教授も、音で判断してました、音の正解不正解ですべて判断されてましたね。最悪演技なんか1個も見ないで、脚本を読みながら、それを正解って言われるような人だった。僕らは技術を大事にしているんですね。技術っていうのはその…会話劇の技術で。
会話は、言うことと、聞くことと、居ること。その3つがないと成立しなくて、でも役者さんに限らず、すべての人は言ってるし、聞いてるし、そこに居るし、っていうのを、日常生活でクリアできているから、なまじ演技でもそれができてると思われがちだけど、実際それを舞台でやったときに、本当に相手に言っているのか、本当に相手の話を聞いてるのかそこに居るのかっていうと、決してやっぱりそうではなくて。
それが僕は会話劇の技術だと思ってて。

日本はそれをちゃんと言語化するべきだとずっと思っていて。それでワークショップをやっているところもあるんですけど。
僕らには…その教授から学んできたメソッドがあって、それをベースに作ってるんですけど、ただ、技術ありきの作品って大して感動しないというか。

大石:それが前に出ちゃってるというか。

深谷:技術だけでは、良作にはなり得るけど、傑作にはなり得ないと僕は思っていて。
チケット代に対して、この金額に対してこれが見られたらまぁいいかな、と終わってしまう作品がたくさんあると思うんですけど、
傑作は、それを踏み台にした…技術とか、あと作品を前にしたときの役者さんの感性だったり知性だったりをさらに前に突き出していって、その上に、更に役者さん本人の魅力。
ピラミッドでいったら、技術、そして感性と知性、そして魅力、っていうピラミッドになっていると僕は思ってて、
最終的には役者さんが自分のものにしたときに、やっぱり傑作になると思っていて。もちろん脚本とか演出が面白い。っていう前提の話ですけど、
それを踏まえた先に、役者さんと技術、感性、知性があって、さらにその上に人間としての魅力が乗ったときに、「作品に恋をする」みたいな、そんな瞬間が僕はそれこそシンクロ少女を観た時にあって、
とにかくもう背もたれからもうずっと前のめりになって、ずっと口角が上がりっぱなしで、
泣けるシーンも笑えるシーンもずっと口角が上がりっぱなしになってしまう。その瞬間があって、僕はそれが見たい。
…ってずっと言っているんですけど、ただ、その魅力を最短で目指そうとしても、なんだか薄い魅力が出てしまうだけな気もしてて。

だからこそやっぱり「技術は大事」ってところに帰ってきてる感じがあって。
技術はもっと、長い目で見たときに後世に残っていくものだと思うから、だから残すとしたらやっぱり(個人のセンスで終わらせるのではなく)技術にしなきゃいけないとって。それが最も大事なんじゃないかというのが、最近の僕の、声を大にして言いたいみたいな感じのことですね。



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