"Roots/vol.11" 『劇団普通』ーーー試行錯誤して、それまでの試した結果を全部集約させて作ったのが、2019年以降ですね。

 佐藤佐吉演劇祭2022、参加団体のこれまでとこれからをお伺いし、できれば歴史をアーカイブしていくインタビュー企画"Roots"が始まっております!

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今回は、4/20より初日の『劇団普通』主宰、石黒麻衣さんへのインタビューです!!

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劇団普通-石黒麻衣(劇作家・演出家・俳優・劇団普通主宰)の作品を上演する団体。2013年旗揚げ。
家族やきょうだい、友人のような身近な人々の日常を独自の緊張感とリアリティを追求した会話で描く。
近年は、出身地の茨城弁による全編方言芝居を上演し、作品の幅を広げている。
2020年には、劇団初となる地方公演として豊岡演劇祭2020フリンジに参加。
2021年には、MITAKA“Next”Selection 22ndに選出され、『病室』を再演。


烏丸:おはようございます、実行委員会の烏丸と申します。よろしくお願いします。まず、石黒さんの自己紹介をお願いしてもよろしいですか。


石黒:はい。自己紹介か…なんてお伝えしたらいいんだろう。劇団普通という劇団を主宰してます。劇団なんですけれども、今劇団員はいなくて、私一人でやっています。毎回出演者の方とかスタッフの方を募って、プロデュース公演のような形でやっています。


烏丸:ありがとうございます、演劇を始めたきっかけなどを聞かせていただけますか?


石黒:えっと、多分皆さん学生の頃からやられてると思うんですけど、私は始めたのが遅くて、学校卒業して就職して、その後にちょっと…体を動かす趣味のような形で、たまたま目に止まって始めた、っていうのがきっかけなんですよ。


烏丸:最初は役者さんから入られた…?


石黒:そうです。


烏丸:そうなんですね!演劇を始める前までは何をしてらっしゃったのかとかお伺いしても大丈夫ですか?


石黒:そうですね、演劇を始める前は会社員だったので。余暇にボクササイズをしたりとか…とにかくパソコン仕事だったので、体を動かす趣味をしたいなって(笑)演劇って声も出すし、いいかなと…(笑)


烏丸:なるほど、一石二鳥だったってことですね。意外なきっかけで面白いです!

今の創作においてなんですけれども。影響を受けたものであったりとか、これがすごく好きで、影響を受けているな…みたいなものはあったりしますか?


石黒:そうですね、なんだろうな…私が入った演劇教室が、完全に社会人向け…にはしていないんですけど、割と、広くいろんな人が来ていいよ!っていうところだったんです。

そこでよく読んでたのは太田省吾の戯曲で。あとよくやってたのは別役実とか、そこから入りましたね、自分でやるものとしては。


烏丸:劇作をしていても、今もその影響を感じるなってときはありますか?


石黒:そうですね。やっぱり…別役は、完全に不条理劇になってるんですけど…例えば必ずしもトントンストーリーが進まなくてもいいんだっていうような、全体的なものの考え方とか。ちゃんと起承転結があって、全部わかるようにしなくていいんだ。っていう大まかな概念みたいなものとか。

あとは太田省吾だと、すごくセリフが端的なので、短いセリフで何回も繰り返したりとかしながら、ちょっとずつ状況がわかったりわからなかったりする、っていうのがあるので、

そういうところに影響を受けてるな、っていうのが、今思うとありますね。


烏丸:確かに演劇を知らないと、「お芝居」って言ったら、もうガチガチの長いセリフだったりとか、プロセニアムアーチだったりって印象になっちゃうかなと思うんですけど、衝撃が大きかったということなんですね。


石黒:そうですね、こんな本もあるんだと思って…(笑)


“2019年にちょっとした転換期があって”

烏丸:ありがとうございます。ちょっと個人のことについて今聞かせていただきましたので、次は団体のことについてお伺いしたいです。

劇団普通さんの、団体の成り立ちについてお伺いしたいんですけれども、どんなきっかけで劇団を立ち上げたのかをお伺いしてもいいですか?


石黒:劇団は、その教室に入ってるときに、一緒に入ってた子と、「自分たちで作品を作って、面白いって思えることをやってみよう」っていう形ではじめました。最初に…2013年の11月に、公演を1回打ったんです。

その後、その子は辞めちゃったんですけど、その後も私が1人で細々と…(笑)その頃は全く、小劇場界に知り合いが本当に一人もいなくて。

ちょっとずつ、ちょっとずつ、知り合いを草の根活動で広げて…なんとかここまでやってきた感じです(笑)


旗揚げ公演「宇宙がこわい!!」フライヤー


烏丸:2013年の11月からなんですね。私も劇団やってるんですけど、実は2013年の11月からなんですよ。


石黒:すごい!


烏丸:劇団は同い年ですね(笑)


石黒:そうですね(笑)びっくりした…!


烏丸:学生ではじめて、いろんな仲間を増やしてっていう10年間くらいなので、すごくわかります。じゃあ、団体さんの特徴を…石黒さんの思う劇団普通の特徴、みたいなものをお伺いしてもいいですか?


石黒:はい。どうなんだろう…基本的にはすごく会話劇ですね。会話劇をやる劇団で、うちの、大きな…ちょっとした転換期みたいなのがあって。

始めてから、2019年に「病室」っていう作品をやるまでと、その後で、だいぶ「作風変わったね」って言われることがあって。


烏丸:どう変わったって言われるんですか?


石黒:そうですね。前まではわりと、会話が…私が会話のリアリティーを求めるための実験というか、1公演ごとに色々試していて。普通の会話みたいに聞いてると、会話している人たちの事情が全然分からなかったりとかしていたので、わりと不条理劇っぽく見られることが多かったです。

会話のリアルさを求めて試行錯誤して、エチュードから多く会話を拾って作ってみたりとか、とにかくリアリティを求めるための作業をすごくしていたのが2019年までで、

「ここまでやるとお客さんがわかる」だったりとか、試行錯誤して、それまでの試した結果を全部集約させて作ったのが、2019年以降ですね。


烏丸:なるほど、実験のデータベースが完成したみたいな。


石黒:そうですね!


烏丸:なるほど。それがきっと…石黒さんとしては地続きでも、お客さんにとってはがらっと変わったって感じるところなんでしょうね。


石黒:そうですね。何か「前よりわかる!」とか「今までで一番わかった!」って言われます(笑)


烏丸:(笑)なるほど、そういう転換期があったんですね。


石黒:そうですね。なんか…自分でも何か作ってるものが、最終的に完成するまでもう…私も出演者もみんな予想図が見えなくて、やっと劇場に入ってゲネプロやってみて、こんな感じだったんだってわかるみたいな(笑)


烏丸:データベースを自分で作っていて、そこに焦点がぐっと定まった作品になる。っていうのが突然起こるっていうのはすごいですね…!


劇団普通「電話」舞台写真(撮影:福島健太)


“いい表情だったな」って思って、そこにつながるように書いたりとか”

烏丸:そんな実験的な作り方もしてきた劇団普通さんなんですけれども、稽古はいつもどんな感じに進めているのか、お伺いしてもいいですか?


石黒:稽古は、うちは結構期間が長い方で、私は本当は2ヶ月きっちりやりたいんですけど、なかなか2ヶ月きっちりとるのは難しいので、プレ稽古をパラパラって3ヶ月ぐらい前からやって、

大体1ヶ月半強の本稽古で作っていく感じですね。最初は台本とか全然全部できてなくて、最初に10ページ弱ぐらい持っていって、そこで稽古しながらどんどん書いて作っていく感じです。


烏丸:じゃあ、結構役者さんを見ながらあて書いて、「この人はこういう風な役もいいな」って感じで進めていく感じですか?


石黒:それはありますね、なるべく合うようにしたいなと思っています。


烏丸:稽古でもお会いしないとわからないことってありますよね。私も結構そのスタイルです。「この役者さんこうやるんだ、だったらこっちの方が面白いな!」とか思いますよね。


石黒:そうなんですよね。「今のところすごくいい表情だったな」って思って、そこにつながるように書いたりとか。


烏丸:さきほど、エチュードからセリフを生み出したり、と言うことをおっしゃってたと思うんですけれど、たくさんやる稽古の中でもそういうことを重ねていって、発見していくような感じなんでしょうか?


石黒:あっ、さっき言ってたのは実験の一環みたいなもので、こう…できるだけ自然に生まれた言葉を書きたくて。それでエチュードを、「最初こんなシチュエーションからはじめて」て言って、ちょっとやってもらってから、「じゃあ、こっちの方に話が飛んでから、最終的にはここに帰結するように話してみてください」みたいな感じで、そうやってシーンを作ったことがあったんですけど、

普段の稽古でも、ちょっとしたエチュードをやってもらって探していったりします。シーンの流れ方とか、どんなセリフが言いやすいかなとか。


烏丸:確かに、役者さんから自然に出たものの口なじみの良さって、もうこれ以上ないってこともありますよね。そうやってエチュードとかをしながら、物語をこう浮き彫りにしていくみたいな一面もあるということなんですね。


石黒:そうですね初期の頃はだいぶいろいろやっていて、他には…同じ10ページの、最初に出した台本をいろんな人に回し読みしてもらったりとかして、役者さん同士のなんだろう、フィーリングを見たりとか。


烏丸:なるほど、確かにそうなるとたくさん稽古の時間がほしくなりますよね。


石黒:そうなんですよ…!最終的には、終わり時をどこかで決めなきゃいけないみたいな…(笑)


烏丸:時間がいくらあっても足りないってのはありますよね…


劇団普通「病室」舞台写真(撮影:福島健太)

“なぜか「最後はこうしよう」って決めるんですよ”

烏丸:さて、そんな感じで、稽古を進めながら台本を書いていったり、エチュードから生まれてきたりっていうお話を伺ったんですが、

プロットとか箱書きだったりとか、全体的な構成とかは、普段どうやって書き進めているんでしょうか?書きやすい書き方というか。先にプロットを書く、だったり、その場でどんどん生まれてくる話を書き連ねていく、というような…。


石黒:そうですね、大体ふわっと「こんな話を書こうかな」くらいで始まって、それからちょっとずつ稽古したり、エチュードをしていくうちに、なぜか「最後はこうしよう」って決めるんですよ(笑)

最初に決めて。で、最後こうしようって決めたら、そこに向けてこのシーンやって、このシーンやって、って…稽古しながら決めていく感じですね。

だいたい前半ぐらい、稽古の序盤ぐらいにエチュードとかを繰り返ししながら、どんなプロットにしていくか決めて、あとは稽古しながらその穴をどんどん埋めていく感じです。


烏丸:大きい枠の中で、最後にゴールが見えたら、そこに対してどんどん話の穴を埋めていく形で作っていくんですね…面白いですね!

そうやって書いてる時に、例えばちょっとラストが浮かばないなとか、このシーン繋げられないなとか、行き詰まった時はいつもどうされてますか?


石黒:そうですね、行き詰まった時か…そういう時はちょっとストップしますね…1回寝かせて、出来てるシーンの稽古をしながら時間を稼いで、一生懸命考える…(笑)


烏丸:そうですよね…稽古しながら台本配ってて「今日は台本配らないです」みたいな時間が長いと、こっちもやきもきしてきますもんね…(笑)


石黒:そうですね…すいませんって気持ちで稽古に行って…(笑)


烏丸:そういう、どうしようかな…って考えるときにすることだったり、お気に入りの場所だったりはありますか?


石黒:そうですね。なにかこれって決まってないんですけど、一応は家のパソコンの前で書こうって考えなんですけど、そのとき…一日中座っても何も浮かばない時があって、そういう時に割と助けになってるものでいうと、やっぱり気分が変わるからなのかわからないんですけど、バイト先に行く途中の電車とか、稽古場に行く途中の道すがらで急に「はっ」て思い浮かんで、「はっ」って携帯で書いて、携帯のメモをそのまま役者さんに送って、稽古場でみんな携帯を見ながら稽古をやったりとか…。


烏丸:もうメモ取るんじゃなくて、そのままそこで本にしちゃうってことですか?


石黒:そうですね。もう役名とか書いてる時間ないんで…とりあえず会話だけバーって、スマホで書いて。


烏丸:へー!!


石黒:それで何度か、自分で…助けられました(笑)やっぱり気分が変わるのがいいんですかね。外に出ると。


烏丸:ずっと家にいると、もう景色が浮かばないってのはすごいありますよね。移動中に出てくるとそういうことになるんですね…電車の中で書いたことはないな…(笑)


石黒:そうですよね(笑)


烏丸:脚本の着想は、いつもどこから得られてますか?書こう!みたいなことが思いつくタイミングとかって…


石黒:そうですね、どうだろう。テーマ…書きたいことのテーマは、もうずっと公演ないときでもいくつか考えてたりするじゃないですか。こういうのやってみたいなとか、こういうのできたらいいのになとか…。

そういうのを考えてるんですけど、具体的に「公演でこんなことやろう」っていうのは、絵が先に浮かんで。

静止画なんですけど「このシーンが欲しいな」っていう絵が浮かんで、書くことが多いですね。一番頭の中でもやもやしてるアイデアの中で、なんか…「こういう風に座って、この角度でこう机があって、こう座って話してるとこが見たい」とか。


烏丸:それは、ラストシーンとかではなく、中盤のシーンかもしれない、どこのシーンかわからないけれど、っていう感じですか?


石黒:そうですそうです!なので、テーマ性が先にあって書く、っていうよりは、見たい絵があって。テーマ性が後付けになったりすることもあります。


烏丸:じゃあ、その絵を目指して、枠組みを決めて、終わりを決めて、さっきみたいに話を埋めていく、っていう感じなんですかね。


石黒:そうですね。


烏丸:そうやって思って作った作品の、その絵が再現される瞬間、っていうのはやっぱりいいものですか?


石黒:本当に、「わあー」って思います。「わあー、できた」って思います。


烏丸:ちなみに、書いてるうちに、その絵じゃない風にしか話がつながらないな、みたいなことあったりしないんですか。


石黒:ああ、そうですね…今のところ幸い、とっちらかっちゃってどうしよう…ってなったことはないです。途中ではどうしようかなっていうことはあるんですけど、なんとかかんとか。


烏丸:やっぱりそのシーンに焦点をあてて書いてるから、そこがブレないってことですかね。面白い…。


“感情が共有できた時、っていうのはすごい、一番うれしいですね”

烏丸:その流れで、今回の作品について、ちょっとお伺いしてもいいですか?


石黒:はい。今回の作品はですね、2019年から書いてたのが…私の出身地が茨城で、茨城の方言の茨城弁で書いた作品で。その茨城弁で書いた作品を、その後ずっと、2020年と、また去年2019年に書いた作品の再演をやったりして、ずっと茨城弁の作品を作ってて、その時はずっと(茨城弁の芝居を)作るぞって思ってたわけじゃないんですけど。今書いてる作品はその流れで来てる作品で、テーマ性もちょっと似てるので、三部作的な感じになってるっていうか。

特に2019年にやった作品とは対になるような作品になってきたなって思っています。過去の作品を見てないと全然わからないよ!とはならないんですけど(笑)


烏丸:なってきたんですもんね!そういう三部作にだんだん…!


石黒:そうですね。はい、書いてるうちに、「もうこれは来たな」と思って(笑)



劇団普通「病室」フライヤー



烏丸:じゃあ着想っていうのは結構、過去の作品からヒントを得て、今構成されていってるっていう感じですかね。


石黒:そうですね…あんまりそこから持ってこようとは思ってなかったんですけど、最初のワンシーンをなんとか頑張って書いた時点で「あっ!」て。「これは繋がったな」って思って(笑)無意識的でうまく説明できないんですけど…!


烏丸:点が線になった瞬間があったんですね。ちなみに、今回のお話の見どころだったりとか、こんなお話だよみたいなこと、簡単にお話していただたりできますか?


石黒:はい。方言芝居ってたくさんあると思うんですけど、なかなか茨城弁のお芝居はないので、そういった地方の方言の情感みたいなものを楽しんでいただけたらいいなっていうのと、

何か…身近な出来事、と言っても「身近」もほんとに人それぞれなんですけど。自分とつながるところとか、全然違うなとか、そんなことを感じながら見ていただけたらと思ってます。


烏丸:ありがとうございます。はい、じゃあ最後の質問になるんですけれども、演劇を作るときに大事にしていること、演劇を作る上において、心躍る瞬間のような…何に重きを置いて、何を一番楽しいと思って作っていらっしゃるかっていうのをお伺いしたいです。


石黒:そうですね…演劇作ってて一番楽しい瞬間は…合ってるかどうかわからないんですけど、演出をはじめは細かくつけているのに、ふと気づいたら、役者さんがすっかりもう自分のものにしていて、私が何も言わなくてもシーンがパタパタパタって出来上がってくる瞬間があって。その…感情が共有できた時、っていうのはすごい、一番うれしいですね。それを一番求めてるかもしれない。作品を作って、お客さんとその作品を通じて、合うなり、合わないなりって、そこから感情の交流ができるっていうことは、すごいうれしいですね。


烏丸:作品を通じてそういうシンクロであったりとか、そのいろんな交流があるっていうのが楽しい瞬間ってことなんですね。

そういうことが起こるように、演劇を作っている、っていう感じか、もしくはそれは偶然起こるものなんですかね?


石黒:そうなったらいいなと思ってるんですけど、作品自体は、まずとりあえず思うように作ってドンって舞台に置いてみて、それを見たお客さんがどんな反応するのかな。っていうところが楽しい、っていう感じです。うまく説明できないんですけど(笑)こう思ってほしい、とかは思ってないです。


烏丸:知らず知らず中でつながっていくところが、楽しい瞬間なんですね。ありがとうございます。すみません畳みかけるようにいろんなことを質問してしまって…


石黒:いえいえ…!自分だと何話していいのかわからないので、ありがとうございました(笑)


烏丸:今回のお話を聞いて、拝見するのがいっそう楽しみになりました。本日はありがとうございました!


石黒:私も王子小劇場さん初めてで、楽しみです。こちらこそ、ありがとうございました。


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