第5回ゲスト:蔭山あんなさん「"重いものほど明るくあってほしいな"というのが、自分の中にはあります」 聞き手:平井寛人(尾鳥ひあり)

   佐藤佐吉演劇祭2022の関連企画として開催される『見本市』

活動最初期にあたる9団体を選出し、ショーケース型の公演を行います
【公演詳細】
佐藤佐吉演劇祭2022 関連企画 ショーケース公演「見本市」
2022年4月7日(木)ー10日(日)@北とぴあ カナリアホール

みなさん、はじめまして。インタビュアーの平井です
見本市の"カタログ"をつくろうと始まった、このインタビュー企画
未知の存在ーーUMA(ウルトラ・ミラクル・あたらしい)でもある、なんともキュートで愛くるしい彼彼女らの"これまで”と"これから"を聞き出してきました
ここでしか聞けないような話も目白押しなんです。ぜひ最後まで見ていってください!
「見本市カタログをつくろう」第5回目のゲストは蔭山あんなさんです


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【ゲストプロフィール】

蔭山あんな https://www.instagram.com/an.mikan.dayone/?r=nametag

1999年生。愛知県出身。愛知県立旭丘高校美術科卒業、現在多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科在学中。主に踊り念仏や田楽踊りなどの伝統芸能を現代的にアレンジした作品を制作している。

〜おうち時間にオススメの一品〜
・ラージクマール・ヒラーニ「きっと、うまくいく」
・岩井澤健治「音楽」

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儀式や伝統芸能

蔭山:私は愛知県出身なんですけど、宮崎県にて大半の幼少期を過ごしました。
   高校の美術科へ行って本格的に美術を学んで、そこの演劇部で演劇を作り始めました。
   今は多摩美術大学の、演劇の学科に在学しています。

   そこで私は、儀式や伝統芸能を現代的に身近に、ファスト的に捉えようとした作品を創ったりしています。
   舞台以外でも、主に性や言葉などの、既成のイメージがあるものを"様々なメディアを使って拡張していく"作品を創っています。
   演劇もそのメディアの一部として捉えていて、"インスタレーション"や"映像作品"も創っています。


ー-他の団体さんや劇団であったり演劇ユニットといった名称で今回参加なさるんですけど、蔭山さんの括りとしては”アーティスト”みたいなことで良いんですかね。


蔭山:はい、"アーティスト"とかそういう感じになると思います。
   ジャンルとしては、"パフォーマンスアートだろうな"という感覚ではいるんですけど。

   また、”俳優”って”わざおぎ”というじゃないですか。
   私はその”わざおぎ”になりたくて、「自分なりの”わざおぎ”ってなんだろう」と考えるんです。

   ”わざおぎ”って”神を招くわざを持つ”というところからそう呼ばれているんですけど、いわゆる俳優が、その”わざ”を持つとされています。

   私は「でもそれだけに限らないな」と思っています。

   "神を楽しませることができる人"というのは、"万人を楽しませることができるであろう"というので、「最終的にはいろんな人を楽しませられたらいいな」というのがあります。

   私が"神"だとか言うことって、結構とっつきにくいかなって思うんですけど、「そういった儀式だったりを"手軽に感じられる作品"を創れたらいいな」と思っています。

   そういう意味で、演劇自体にも"やりやすい部分"と"やりにくい部分"はありますね。
   この"とっつきにくさ"というのは、「入り口的な問題じゃないかな」と思います。

   私はどちらかというと映画よりも演劇が好きなんですよね。
   映画ってわりととっつきやすいジャンルではあるかなと思うんですけど、やっぱり演劇って、"その劇場に来るまで"が、まず"とっつきにくいな"という印象ではあります。

   だけど私は、そこも含めて好きで、なんか「"旅をする感覚"と同じだな」と思っています。

   演劇を観るだけじゃなくて、そこの劇場に行くまでだとか、"その場所にいる"ということ自体が体験として成り立っている。

   自分としては、そこの(入り口部分での)とっつきにくさを解消して、「まずはやってみる」みたいなところに興味があります。
   それも含めて、"身近に捉えられるような作品"を創ることもしていますね。


("身体をつかって動物の感覚をトレースしてみている"稽古場写真)


お寺と水が好き

蔭山:私はお寺へ行くのがすごい好きで、"お寺の何がいいんだろうな"と思った時に、遠い寺に行けば行くほど、着いた時の高揚感がすごい
   それが"劇場へ行く"ということと繋がるんじゃないかなと、最近ちょっと考えたりします。

   仏閣巡りだったり、1人でふらっと行くのもすごい好きです。
   最近は新年明けてから奈良の方に、名古屋から1人で3時間ぐらい鈍行を乗り継いで、お寺をいっぱい巡りました。仏像とか好きです。

   あと私は海とか、"水が多めのところ"も好きです。
   水泳とか泳ぐことはできないし苦手なんですけど、江の島とか横浜で海を見ていると、すごい親和性があるというか、落ち着きます。
   水族館とかでも、水槽に水がどっぷり入っているじゃないですか。ああいうのを観て、安心感を覚えます。


井の中の蛙

蔭山:今回参加する作品では、まず「井の中の蛙」という言葉から着想を得て創っています。

   ”井の中の蛙を放流する”ということで、普段自分たちが目を真っ直ぐ向けられないであろう、自分の"身分"であったりとか”井”の部分だったり、そういうイメージに目を向けて"本当の自分を知るお話"を「いろんなメディアを使って伝えられたらいいかな」とは思っております。

   キャストが"いろんな動物"や"女子高校生"になったりとかします。"蛙"ももちろん出てきます。
   最終的には「”たまたま女子高校生だった女子高校生”と”たまたま蛙だったニホンヒキガエル”の会話劇」になっています。


("作品のキーワードになる「いえ」について考えている"稽古場写真)


自分ってちっさいな

蔭山:自分が社会で生きていて、なんか嫌だなと思ったこととかって、やっぱり口に出したくてもなかなか声に出して言えないんです。
   そういった実体験が、創作を続けていくエンジンになっています。

   こう言ったらなんなんですけど、そうやって私が"うー"って思ったことを作品にして"それを観てくれた人も一緒になって解消してくれたらいいのかな"とは思えますね。

   あとはいい作品を観るとか、自分の好きな作品に触れることは、すごいエネルギーになるなと思います。
   「自分もこういう作品を創りたいな」とか、そういうことはあります。

   行き詰まったら、海とかそういうなんか"自分に近そうなもの"のところに行くとかはしますね。
   "自分を知る"みたいなことになるんですけど、地元にすごい高台の公園があるんですね。
   そこから市中を見渡せて、ビルや光がたくさん見えて「自分ってちっさいな」と思うと、なんか安心できます。


長谷寺の護摩行

蔭山:最近観てというか、体験して「すごいな」と思ったのは、奈良県に"長谷寺"というところがあって、その階段と、新年の"初護摩行"をやっていたんですけど――
   長谷寺って400段ほどの階段があるんですけど、めっちゃキツいんですよ。

   400段ということで、”死”に向かっていくみたいな意味合いがあります。
   登っている間の「あ、キツいな」って思ったくらいのタイミングで、その"護摩行の音"が聞こえてきて、「なんか聞こえる」と思って駆け上がっていったら、
   護摩行がやっていたので「これが極楽かぁ」みたいに勝手に思っちゃって、それがすごい良かったなって思いました。

   そういうわけで、「年が明けた頃に是非"長谷寺"に行ってみてほしいな」と思います。  




妖怪ごっこ

蔭山:本格的に演劇を始めたのは高校の頃からなんですけど、今思えば小学校の頃に、私が勝手に”妖怪ごっこ”という遊びをつくっていて、そのていでクラスのみんなが掃除へ行く前に、みんなの赤白帽子を”おばけコイン”として回収して教室に持っていったことが、"原体験"だったかもしれないなと考えています。

   幼稚園の時には、お母さんが「あんた漫才書いてたよ」と言っていて笑
   小学校では新聞とか漫画を描いたりもしていて、それらを学級文庫に置いていたりしていたことも、たぶん今に繋がっているのかなと思います。


無自覚の変さ

蔭山:"作品を構成する手順"はあんまりやり方とか決まっていないんですけど、思いついた言葉や台詞、場面を"ノート"にアイデアとして書き起こしています。
   そこからやってみることが多いかなと感じます。

   あとは夢に出てきた映像をちょっと変えて、作品にしてみることもたまにあります。
   「これは使えるぞ」と思ったら、部分部分ですけどメモをして覚えておくようにはしています。

   創作は、"行き当たりばったり"が多いです。
   とりあえず書いてみてから、そっから戻してみたりとか、それの繰り返し。

   ご一緒する役者さんには――
   何か"コレ"っていうものを持っていると感じると、"何か一緒にやってみたいな"と思う事が多いですね。

   登場人物とか"ボヤボヤっていうイメージ"はあるんですけど、そのモヤっとした中から、とりあえず一緒にやってみたい役者さんに声をかけてみて、それから固まることが多いです。

   この人に「これ言わせたら面白いだろうな」とか、すっごい考えていそうな人に興味が湧きます。
   
   どこに行っても変というか、どこかしら何か変な部分がある人には、わりと「”ナニコレ”ってものを持っているな」と感じますね。
   まさしく芯を持っている方だったりとか、その変ということ自体に気づいていないくらいが丁度良くて。

   "無自覚の変さ"みたいな。
   もしくはそれに気づいてひた隠しにしているみたいな。

   そこをどうにかして見せてあげたいなぁみたいなこと。
   「この人はこんなにいい魅力を持っているのに」というのはよく思います。


もう1個フィクションを盛り込む

蔭山:稽古場では"空気が1番大事だな"と思っていて、いかに楽しくやれるかと考えたりして創っています。

   作品ごとにいろんな媒体を使うっていうのは、そのときどきによって私のやり方も変わるので、特にいつも共通することは無いといえば無いんですけど、でも「これありえないだろう」みたいな"フィクション的な名前"だとか、そういう"架空のもの"を意識することは多いと思います。

   "作品自体はフィクションである"と思うんですけど、その中に"もう1個フィクションを盛り込む"みたいなことは、よくやるかもしれないです。

   フィクション自体に"どこかと繋がる感覚"というのがすごいあって、"パラレルワールド"と似ている感覚というか。
   もし「自分がこうだったら」みたいな「”if”に繋げられる部分なのかな」と考えています。

   私は人間だけど、もし「何か違う動物だったら」とか「その意思があったら」とか、逃げ道じゃないけど、そういうふうに捉えてはいるかなと思いますね。


重いものほど明るくあってほしいな

蔭山:"重いものほど明るくあってほしいな"というのが、自分の中にはあります。

   自分が「なんかイヤだな」って思ったこととか言えないことを、作品に繋げることが多い。
   「そこをどうやって"自分の気持ちの良いもの"に思えるか」というか、「"自分なりに面白い"と思えるところに持っていくか」みたいなことはよく考えています。

   「予想ができないことをやってやる」みたいなのが結構、自分の中ではあるので、"誰もやっていないことをやる"とか、そういう”わからなさ”を目指したい。

   そこから段々分かっていくというのは、脳の刺激になるというか、そういうふうに動いています。

   また、偶然が重なった時に面白いなと思ったりします。
   ネット検索(ネットサーフィン)とか、わりとそれに近いなと思います。

   「自分の生年月日」に「NASA」と付けて調べると、「自分が生まれた時にNASAが撮った星の写真」が出てくるんです。
    私が生まれた時には、"火星に行く衛星の写真"が出てきました。
   それは私が生まれる前に到着して、そこから私が生まれて通信が途絶えたっぽくて、なんかちょっとよくわかんない星の写真だったんですけど笑
   「思ってたんと違うけどなァ」って思って、それで調べてみたらそういう話が出てきました。そういう偶然性とか偶然の出会いは面白いかなと思います。

   私の作品でも、「なんか分からないことが起こるよ」みたいな。
   奇跡ほどのものではないんですけど笑




作品タイトルは「放流する(かえす)」

蔭山:今回参加する作品のタイトルは「放流する(かえす)」です。
   「自分たちが”井”の存在になって、自分の中の”蛙”を”本来あるべき場に返してみよう」という意味合いがあります。
   「”儀式”をした上で”会話劇”をやる」という形になります。

   その中で”創造主”みたいな感じで「おかあさま」という役割が出てくるんですけど、それによっていろいろ変わっていくというか――
   そんなに変わんないんですけど、変わるみたいな感じになっていきます。

   ”自分が生まれたわけ”ってやっぱり、1番近しい存在でいる「お母さん」という存在になってくると思います。
   儀式的なものを経てから、「自分のルーツを辿ってみたくなるような作品」でもあるかなと思えます。




おうち時間にオススメの1品はラージクマール・ヒラーニ「きっと、うまくいく」etc.

蔭山「きっと、うまくいく」という映画があって、3時間あるんですけど、インド映画なので歌とかが結構メインで聴けて、「ミュージカルっぽくて楽しめる作品」です。

   3人の男の子たちの友情がすごい熱くて。
   映画の中で"All is well"という「きっとうまくいく」という言葉を唱えて、それで成功へ導いていくみたいなお話です。

   そうやって信じて行動を起こしていくんですけど、自分もそうやって唱えたら「明日もいい日になりそうだな」とか、そういうふうに思える明るい作品だなと思えます。

   その反面、"インドの社会情勢"や"カースト制度"であったり、"数字に厳しいという部分"だったりも盛り込まれています。
   インドの状況も知りながら、ホッコリ温かい気持ちになる作品なのでオススメですね。

   あと「音楽」というアニメーション映画もいいです。
   緩い可愛らしい絵柄なんですけど、"ロトスコープの技法"が使われていて、「演奏シーンとか白熱したシーンになると、その技法がすごい生きてくる」というのが、この作品の演出としての魅力かなと思います。

   ストーリーとしては、音楽に興味も無いヤンキーが急にバンドを組むんですけど、プロの演奏とは全然違った上で、「音楽とか何か創ることの楽しさ」「一緒に創ることの楽しさ」を思い出す、"初心に返れる作品"だなと思います。
   主人公たちは全然楽器とかコードとかも何も弾けていない状態だけど、「なんとなく”音楽”っていうものができているぞ」っていうので、「私も音楽をやりたいな」と思える作品だったので、是非観てほしいなと思います。


創作で行き詰った時ほど料理めっちゃする

蔭山:あと、料理も好きです。"お菓子作り"とかはめっちゃしました。

   「創作で行き詰った時ほど、料理めっちゃするな」と思っています。

   演劇や作品制作は"長期的な創作"みたいな感じがあって、結構ストレスも溜まりやすいと思うんです。
   料理は"短期的に創れる1番のもの"だなと思って、「とりあえず手を動かすには1番料理がいいかな」と思います笑

   「何も創れないよ」となった時に、料理を作ると「料理作れた」みたいな安心感が出てきます。
      

最後に一言

蔭山:あの、なんとか頑張るので、よろしくお願いします。

※次回は明日、SHIMAISHIBAI主宰 藤井千咲子さんのインタビュー記事です。次回もまたお会いしましょう!


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