第3回ゲスト:香椎響子さん(ヴァージン砧 主宰)「演劇って意外と、人と人とが創るっていうのが1番強いと思う」 聞き手:平井寛人(尾鳥ひあり)

佐藤佐吉演劇祭2022の関連企画として開催される『見本市』
活動最初期にあたる9団体を選出し、ショーケース型の公演を行います
【公演詳細】
佐藤佐吉演劇祭2022 関連企画 ショーケース公演「見本市」
2022年4月7日(木)ー10日(日)@北とぴあ カナリアホール

みなさん、はじめまして。インタビュアーの平井です
見本市の"カタログ"をつくろうと始まった、このインタビュー企画
未知の存在ーーUMA(ウルトラ・ミラクル・あたらしい)でもある、なんともキュートで愛くるしい彼彼女らの"これまで”と"これから"を聞き出してきました
ここでしか聞けないような話も目白押しなんです。ぜひ最後まで見ていってください!
「見本市カタログをつくろう」第3回目のゲストはヴァージン砧主宰の香椎響子さんです


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【ゲストプロフィール】

香椎響子 https://note.com/kash1kyo5/
(ヴァージン砧 https://twitter.com/virginkinuta)

ヴァージン砧という団体で台本を書いています。
手前味噌売りつける商人になることが一先ずの目標です。

〜おうち時間にオススメの一品〜
・村田沙耶香「地球星人」
・増村保造「最高殊勲夫人」他

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きっかけはファッションショー形式のプレゼン

香椎ヴァージン砧は、基本的に私が1人でやっている団体です。
   もともと大学で同じ演劇部だった、中野坂上デーモンズの安藤安按さんと、2人でユニットみたいな形で立ち上げた団体です。

   私が演劇と関わり始めたきっかけというとーー
   演劇の話から少しだけ離れるんですけど、高校の文化祭で"プレゼンテーション"という、競技みたいな枠があって。
   そこで「作演」を初めてしたというか、"研究を発表する"という名目で"ステージで自由に催しをやってよい"というスタイルだったので、「高校の制服の歴史」をテーマに"(戦前)女学校時代の制服"と"今の制服"の違いなどを発表しました。

   男の子に制服を着てもらって、ファッションショー形式にして。
   その時の体験が、(演劇と関わり始めた)きっかけだった気がします。

   何か書くのは昔から好きでしたが、小説を書いてみたりする程度でした。あとは作文を褒められたりしたくらいです。
   人前で見せるというのは、そのプレゼンテーションが初めてでした。
   プレゼンテーションの評判はかなりよくて、その年は優勝できました。それが無かったら、たぶん演劇をやっていないと思います。

   そのあとは、大学で演劇部に入って、本格的に演劇に関わり始めました。
   その演劇部では1年生の時にだけ、スタッフ志望でも全員"役者"をやらないといけませんでした。なので、少し役者もやりましたけど、基本的には作演だけを4年間やっていました。

  演劇はやっぱり1番達成感というか、「ああ、やったな」と思えるというのと、お客さんの反応も1番(直に)くるので続けている気がします。


ラジオが好き

香椎:私が(生活で)1番時間を費やしているのは、ラジオだと思います。
   最近は台本を書かないといけないので、だいぶセーブしてはいるんですけど。
   TBSラジオが好きで、朝から夜までいろんなラジオを基本的に聴いています。
   台本を書く時だと、集中していなくても大丈夫なタイミングや、追い込まれていない時には常に何か耳に入れておきたくて。音楽だと台本に影響してくるんですよね。

  あとは単純に、私が流行に疎いので、"ニュース源"としても利用している感じです。
  "どうでもいい海外のニュース"や、"本当にふざけたニュース"から"結構大きなニュース"までラジオでは扱っているので、情報収集の場としても使っています。ほとんど外に出ずに、ずっと家にいるので笑

  ラジオからの直接的な作品の影響というと、自分としてはあまり感じません。ただ、ラジオで聞いた話題から着想を得ることはあると思います。
  ラジオを聴き始めたのは、ここ5年くらいなんですけど、それまでは本当に"テレビっ子"でした。東京に越してきてからは、"TVが無い生活"が続いています。
  それで、スマホでも聴けるラジオに移行してきました。ラジオは楽ですね。

若干のバカバカしさ

香椎:今回の作品では、企画段階で役者さんなどに「"連合赤軍"から着想を得たよ」と言ってきていましたが、8割ほど台本を書いてみて、どんどん違ったものになってきています笑

   着想を得たのは連合赤軍の「山岳ベース事件」です。彼らが山登りをして、訓練をする時に、水筒を忘れてきた人間がいたんですね。
   そこで「山登りで水筒を持ってきていないとは何事だ!」とキレちらかされて、それがすごい事件にまで発展して結果、(もちろんそれだけが理由ではないのですが一因となり)"あさま山荘"まで行くという実話があります。

   「そのきっかけが”水筒”っていう"若干のバカバカしさ"を使えたらな」と思いました。「それを書こう」と思って進めてはいるんですけど、逸れています笑

   最終的に(着想とは)全然違ったものになるのが、私の創作の常で、今回は"SF"も入ってきちゃって。もう手に収まらなくて困っています笑 "時間を戻せる能力"が出てきちゃったりしています。
   頑張って収集させます。もしかしたら、全消しになる可能性もありますが笑
   いろいろ「大丈夫かな?」「可能かな?」と考えつつ、頑張ります。

書くことが書くためのエンジン

香椎:演劇を続けるにあたって、やらないと"どんどんやらない方向に転がっていってしまう"ので、私は定期的にnote(クリエイターが文章やマンガ、写真、音声を投稿することができるプラットフォーム)を書くことにしています。

   何か1つでも書き始めちゃえば、"どんどん書きたいことが出てくる"タイプではあります。ただ、1文字も書かないと、もう全然"書きたい気持ち"が起こりません。
   とりあえず文章を書ければ、そこが"エンジン"になってきます。

   noteの方が、何も考えずに書けるので、「(演劇や小説でもできない)"タネ"みたいなものをバーッと書いて更新する」ということをしています。noteがないと結構大変です笑 
  書くために書く、みたいなことですかね。書くことが書くためのエンジンです。

  私はストレスの解消法がほとんど無い人間なので、好きなことをやってーーラジオを聴いて、映画を観て、本を読んで、そうやっているうちになんとか(元気を出します)。
  あと、映画を観ていると、良いアイデアが思い浮かんだりします。それが出来るかどうかは別として、「こういうことを私も書いてみよう」と思えたりしますね。

  また、すごく負の感情ではありますが、ニュースを観て"すごくイヤな気持ち"がしたり、「これはどうなんだろう」と思った時に、「自分の気持ちを言葉にする」のはいい作業なので、ニュースを観ることで書きたくなることもあります。


真面目さだけで書いています

香椎:脚本を書く時には毎回、最初の段階で「こうして、こうやろう」という"起承転結"を書き出して、プロットを作ります。

   ただ、書き起こしている段階で「違うな」と思ったり、いつの間にか違うことを書いていたりして、プロット通りにいったことはないですね。
   バーッと書いていって、「あ、違うな」となった時には、プロットから一旦離れるために筆を止めます

   「この日に書き終えないといけない」という"〆切"がないと、多分(公演を)できていないんですよね。幸い「〆切を絶対に守らなきゃいけない」と思っている人間なので、あとはそこの気合だけです笑 真面目さだけで書いています

   いろいろな人間の顔が思い浮かんできて、"〆切を守った方が圧倒的にいい"
   〆切を過ぎても、自分が苦しいだけなので、「苦しみたくない」というところですかね。

今回参加する作品のタイトルについて

香椎:今回の作品のタイトル、今は「白昼より(※記事執筆時点では「先生の問題(仮)」に更新)」なんですけど、完成したあとにもう1回考えます
   とりあえず「半分くらい書いたぞ」というタイミングで「白昼より」というタイトルだけ書いて、また書き続けている感じです。

おうち時間にオススメの一品は村田沙耶香「地球星人」etc.

香椎:最近、村田沙耶香さんの「地球星人」という小説を読んで、もう本当に久しぶりに「ド肝を抜かれた」というか、「はぁ、こんなことってやっていいんだ」と思ったんですよね。

   別に、作品の中では"常識を守らなくていいんだ"というかーー
   別に"常識が無い"わけじゃないし、寧ろ"すごく常識的なのに常識が無い"という感じです。
   秩序がなくてワクワクしました。すごくビックリしましたし、面白かったです。

   「自分を地球人じゃないと思っている」というか、"地球人じゃない女性"が主人公です。
   他にも、地球の"婚姻"や"恋愛"に馴染めない人もいたりして、「その人たちが地球人じゃなくなるお話」(?) です。
   そんな奴は(周りに)受け入れられるわけもないんです。特に主人公たちが問題にしているのが「恋愛に対する拒絶」。「結婚したら性交渉しなければならない」とか、「子供を産まなければならない」とか、そういうったものに対して、すごく"拒絶反応のある主人公"が、親から追い詰められたり怒られながらも、それでも「自分たちは"地球人じゃない"から、元の生活に戻ろうとする」お話です。

   「私はこうだから」というのが、あんまり他人に押しつける感じがなくて私は好きでした。
   自分が"違う星の人間だ"と言うのは、言葉にすると、すごく"頭がおかしい感じ"になっちゃうんですけど、「私はこうだけど、地球の人間である貴方はこれでいい」っていう"肯定"でもあるなと思いました。「(無理に)同じ星の人間だ」とか、本当は同じなのに「あなたは違う」「あなたはおかしい」とならないところが、すごく健やかだなと思っています。

   演劇や創作の"いいところ"というのも、「AでもBでも曖昧なものでいいですよ」と肯定できるところにあると思っているので、この「曖昧さみたいなもの」を、私も考えていかなければなと少し思っています。

   ハーモニー・コリン監督の「ミスター・ロンリー」という映画もオススメです。
  事件も何個か起こるんですけど、基本的に激しいことがあるわけじゃなくて、穏やかで他人と付き合えない人たちが出てくるような映画なんです。
  「自分は"マイケルジャクソン"としてしか生きられない」という主人公のお話なんですけど、すごく優しくかつ残酷なところがあって、若干宗教みたいな形にもなっていて、素敵なお話でした。

   あと、私個人のオススメ作品としては、増村保造監督の「最高殊勲夫人」という映画が本当に大好きです。観終わって最後に「終」って文字が出た瞬間には「最高! 最高!! 最高!!!」と思ったくらい、本当に最高なんです。

   ただただ「2人の男女が仲違いしながらも、最終的には結ばれる」みたいなお話です。
   それだけなんですが、すごくよいです。"色彩"も"色味"も綺麗で、かつお話のテンポがすごく速くて、会話も小気味よくて、みんな茶目っ気があってすごく可愛くて、「今1番好きな作品」かもしれません。

  増村監督の作品はどれも好きですね。昔の映画、昔のテンポ感って感じはあるんですけど、今観ても、特に「最高殊勲夫人」は可愛いなと思うんです。


放送作家になりたかった

香椎:「子供の頃に観なかった映画」を最近観たりしています。2022年になって「ファインディングニモ」を観て「すごい面白い」と言っているという笑
   
   子供の頃は「お笑い」や「バラエティ番組」しか観ていませんでした。なので、「子供の頃に"観ていたよね"というような映画」だったりが、あんまり記憶にないんですよ。それもあって最近、そういう"ストレートなもの"を観ています。

   子供の頃も、今とあんまり変わっていません。家から出ずにずっと"お笑い"を観ていました。「お笑いを観て、宿題をして」という子供だったので、お笑いを観ていた記憶しかないですね。
   そういうのもあって、もともと放送作家になりたかったんですけど、「いつの間にかこうなっていた」という感覚が1つあります。
  流れに身を任せている感じでもあるので、特段「なんで今こうなっているのか」というのはないんですけどね。なんでだろう。

   今は、子供の時ほど"バラエティ番組"を観ていないのと、そんなに「夢を見ていない」のかもしれないですね。
   うーん、なんかもっと、子供の頃は「純粋に放送作家を志していた」ところはあります。
 
   お笑いは全般的に好きでした。
   "くりぃむしちゅー"から"チュートリアル"だとか、"ピース"や"平成ノブシコブシ"に移っていって、特に2000年代のお笑いを観ていました。
   学生の頃は福岡の人間だったので、お笑いライブには行けなかったんですよ。でも当時、劇場が中継して「お笑いのネット配信」をやっていたので、毎日観ていました。
   あと"ラーメンズ"が最後に単独ライブをやっていた時には、福岡西鉄ホールに観にいきました。

  ただ"お笑い"はすごく難しくて、やるぶんには「私は戦えない」と思っているので、お笑いをやろうとはしていなかったですね。戦ってもしゃあないんで。

書くことが1番好き

香椎:ヴァージン砧の今後については、まだあんまりちゃんとは考えてられていません。
   今回も誘ってもらわなければ、今年は1回も(公演を)やらなかったかもしれない。
 
  もうコロナ禍で赤字を背負うのが、結構キツくなってきたのもあります。
  ちょっと今、様子を見ているところでもあります。とりあえずコロナが落ち着けば、なにも考えずに創作活動できるのが1番いいなと思っているので、もう少しちゃんと、どこかしらでやりたいはやりたいんですけどね。

  ゆくゆくは(公演を打つ)会場も大きくしていけたら、すごくいいですね笑 
  でも「絶対こうなるぞ」という感じはなくて、寧ろ「無理なく何かを書きつづけらればそれが1番いいな」と思っています。

  「書くことが、私は1番好き」なので、なにかしら「文章を書く」「作品を書く」ということを、いろんな形で続けられるのが1番だなと思っています。

本音で喋ってほしい

——"書く"ということに絞って考えると、演劇は、「複数人での創作になる場合」がほとんどだったり、"コストが高い創作媒体"という面もあると思いますが、その点はいかがですか?

香椎:そこが1番ネックではありますね笑

   私は「人当たりはいいけど人付き合いが苦手」みたいなタイプなんです。
   すぐに疲れてしまう"体力が無い人間"なので、「お金と人とをバーッと動かさなきゃいけない時」に、頭がいっぱいになっちゃって大変ではあります。
   
   ただ、演劇って意外と、人と人とが創るっていうのが1番強いと思う。
   うちは基本的に、"信頼できるスタッフさん"や"役者さん"にオファーを出していて、信頼できるメンバーで創っています。

   また、「公演が終わった後に、"飲み会をやる"とか"ご飯を食べる"というのが、すごく大事だ」と私は思っています。
   ここでやっと本音が言えるだとか「あそこはああ言ったけど、本当はこう思っていました」というのを、(稽古終りでも本番終りでも)機会がないと、「みんながどう思っているのか」というのが分からない
   (コロナ禍の)今の状態だと、ただの"社会人同士"というか、"仕事としてやっている"くらいの距離感になってしまいます。だけど、なるべく本当はもっと「"人と人とがつくるぞ"というのでやっていかないと大変だな」と思いますね。
   お酒を飲まなくてもいいんですけど、食事できるのがいいんです。

   Zoomでも出来るには出来るんですけど、やっぱり隣り合わせでお喋りした方が本音は出るので、今、演劇をやっていて「難しいな」と思いますね。

(ヴァージン砧第5回公演『ハトとバカ』より、劇中写真)


香椎:なるべく役者さんに対しても、「イヤなことは言ってね」「言いたくないことややりたくないことは、その場で言ってくれたら対応するよ」というスタンスでいます。「なるべく稽古場はいい雰囲気でつくろう」とは思っています
   ただ相手も大人なので、「そりゃあ本音で言うわけないわな」というのもあります。
   
   "飲み会"って、ふざけながら、相手に冗談交じりに「不満を言える場」でもあると思う。それが無いと、「お互いの"引っかかり"は取れないのかな」というのが、ちょっと心配です。
  「あれが嫌だ、あれをしないでほしい」って伝えられる場がないと、世の中的にも「大変なんじゃないかな」と思いますね。

   本音で本当は喋ってほしいなって思うし、私はずっと聞いてしまうので。
   「今どういう気持ち?」とか。本音が出てくるわけもないんですけど、「どういう気持ち?」とか「今、何の顔?」とか訊いちゃいます。そういうところの"嘘"をつかれるのが、苦手なのかもしれないです。

   私みたいなネガティブな人間って、基本的に「人間という枠組みは好きじゃない」けど、「人は好き」なんですよね。人間は「面倒臭いし難しいし、みんな意見が違って気持ち悪いな」と思うんです。ただ、人が嫌いなわけではない。

   だから、私がラジオを好きなのはそこだと思っています。
   ラジオって、"人の考え方"だとか"自分に無いもの"を聞けたりもします。「そういう考え方もあるんだ」とか、「こういうことに面白みを感じるんだ」とか。
   ラジオやエッセイ、そういう類のものが好きなのは、「人の考え方を聞けるから」というのがデカいですね。

   劇作でも、(意見などを)押しつけたくはないですね。
   「みんな、押しつけないようにしよう?」という気持ちがあります。

   私は自分のことをいい人間だと思っていないしーー
   あんまり良くないかもしれないんですけど、(事件があると)被害者にも加害者にも、私は感情移入してしまいます。
   「何かあったのかな」とか「自分がいつか、こうならない保証がないな」というのを、ずっと思いながら生きています。

   「自分は基本的に悪い人間だし、一歩間違えれば、悪いことをするのかもしれない」というのは、私だけじゃなくて人間はみんなそういう生き物だとも思ってはいます。
   その"境界線"というのは、しっかり目に見えて"線"が引かれたものじゃありません。"物理的ではない線"というものがあるので。
   なんかそのーー
   すべてを肯定したいなという気持ちがずっとありますね。
   言葉にするのがすごく難しいんですけど。

   自分でものを書きながら、「これで合っているのかな?」「肯定の仕方があっているのかな?」「その肯定自体が合っているのかな?」という気持ちもずっとあります。
   私のその立場はズルいというかーー
   それを、"自分のものではないところ"で書いて「わかるよ」って言うのって簡単だけど、「そんなもんじゃない」というのは自分の中であります。「お前に肯定されたくない」という人間の方が多いとも思うんですよ。

   難しいなと思いながらーー
   みんな幸せになってほしいです
   難しい問題だし、やるしかないなって感じです。

公演への意気込み

香椎: 今回"ステキな役者さん2名"にオファーしておりますので、本当に、ただただ観にきてください!

※次回は明日、食む派主宰のはぎわら水雨子さんのインタビュー記事です。次回もまたお会いしましょう!